X〜さらば騒動よ〜
少しだけ見えてきたラストシーンに手を振ろう。きっと向こうは気付かないけれど。
さようなら、CLATTER・VOCATIONS
風が止んだ時、初めに見たのは野原だった。その次に見たのは紅と銀だった。
正確に言えば「紅いコートを着た銀髪の少年」だ。初っ端から目が合ってしまった。
「…ど、ども、何でも屋です」
口をついて出たのは、どっかで聞いたような言葉。
「敵、じゃねぇよな…?」
当たり前だが少年は相当警戒、ついでに困惑してる。
「これ!手紙!!依頼!」
「……あ、あぁ!出した出した!それ俺が出したんだよ!!」
俺も焦りで上手いこと文章が組み立たない。とりあえず手紙を見せたらどうにか伝わったようだ。
「俺はコヒメ、こっちはキョウタ。2人で何でも屋やってる。よろしくな」
挨拶と共に手を差し出す。紅いコートの彼も手を出し、握手を交わす。
「俺は火炎(コオン)だ。こっちこそよろしく!」
「ねぇ、依頼の内容なんだけどさ」
キョウタが不思議そうな顔をしながら話に入ってきた。
「“俺のバカバカ煩い友人とそいつと一緒にいる女の子がなんかもどかしいので、どうにかして下さい”ってあるけど…」
「おぉ、そうそう。それで間違いない」
「どうにか、って具体的にどうすんの?」
しばしの沈黙。
「…そりゃ、どうにか…どうにかって、どう…すんだ?」
分からないから聞いているのに聞き返された。誰も次の言葉を続けない。
「つまりあれか?どうにかしてくっ付けろって?」
適当に言ってみたら火炎が高速で頷いている。一応そういう方向らしい。
「了解〜。ならまずはその“バカバカ煩い友人”っての見せてもらおー」
「よし、じゃあこっち来てくれ。静かにな」
所変わってin雑木林。草やら木やらの陰に隠れてこっそり奥を覗けば、緑色の中に青が見えた。コートが青ければ髪も青い人物がいる。
「もしかしなくてもあの青いのが友人か…?」
「ああ、そうだ。氷麗(ヒョウレイ)っていう」
いかにも恋愛事とは無縁だと言いたげな少年が1人。早速難航しそうな雰囲気が漂う。
「で、そのお相手は?」
「疾風(ハヤテ)っての。多分その辺にいないか?」
キョロキョロしていたら赤い綺麗な髪の少女を見つけた。無邪気に笑う表情はそれなりに可愛いんじゃないかと思う。
「しっかしまた……恋愛沙汰に疎そうな…」
「あながち外れてねぇんだよそれが…」
「なんだろ、稀に見るものすごい前途多難な感じだね」
俺の予想では今回の仕事の中で最大のゴチャゴチャが生まれると見た。
「それでだ、どうする?」
「手っ取り早くヤキモチ大作戦ってのはどう?」
「氷麗に?…あいつヤキモチ焼くのか?!」
「なら他に何かある?」
「……無い」
「とにかくやるっきゃねぇな」
方針は決まった。作戦も決まった。さぁやろうと意気込んだと同時に今回も忘れ物発見。
「待て待て、誰が…ハヤテちゃんに、その…ちょっかい?出すんだ」
「そりゃー」
キョウタの目線が俺に向いている。まさか…?
「コヒメ出来ないでしょ。コオンも無理。イコール僕しかいないじゃん」
こういう時は察しが良くて大変助かる。他の所もこれくらい気が利くといいのに、なんて言うだけ無駄なので言わない。
「てなワケで!行ってきますっ!」
「生きて帰れよ!!」
何故か敬礼しているキョウタをおかしな言葉で送り出した。なんだこのテンションどうした俺。
何も出来ないので、そのおかしなテンションを抑えつつ、火炎と見守ることに専念する事にした。
「やぁ、キミカワイイね♪」
全く清々しくナンパを始めたキョウタ。何というか手慣れている。
「へ?あ、どうも〜」
「反応薄っ…ま、いいや。ちょっと僕と遊ぼうよ」
笑顔で話しかけている姿がちょっと怖い。本当に何かしでかしそうな雰囲気。疾風ちゃんは素直な笑顔を見せて答えた。
「遊ぶの?何して?」
怪しいとか怖いとかは思わなかったのだろうか。まるで友達に話し掛けているみたいだ。
「僕町のほう行きたいんだけど、よく知らないんだ。案内してくれる?」
「うん、いいよ!」
キョウタが手を差し出して、疾風ちゃんがその手を取ろうとした。その時。
「誰だお前は…何をしている」
青色の彼がキョウタの手首を掴んだ。言葉以上に表情が警戒を現している。
「この子気に入ったから声かけてんの。そっちこそ誰?この子の彼氏?」
心底楽しんでいるキョウタに氷麗の表情が変わった。
「…誰に頼まれた。言え」
ちょっかい出す役を俺がやらなくてよかった。キョウタは素知らぬ顔をしているが、俺だったら直ぐにバレていただろう。
「なにを言えって?」
「とぼけても無駄だ」
「キミこそなに…――っ」
突然キョウタが動いて氷麗の手を振り払った。
「痛いよ。暴力はんたーい」
「………」
素早く氷麗が疾風ちゃんとキョウタの間に入り背に隠す。青色からは既に怒りに近い感情が滲んでいた。
「怖いなぁ〜いいよ分かった。もう何もしない、帰るってば」
とっとと引き下がり帰ってきたキョウタは思いの外楽しそうだ。
「お疲れ様!」
「なかなか上手くやったっしょ?」
「ヤキモチっつーか心配って感じだったけどな」
「一応だけど作戦成功だよね!」
「成る程、そういう事か」
3人の背後から呆れたような響きが届いた。
「あ〜、つけられてた?」
「お前っ…!!」
赤の首根っこを青が取り押さえた。
「火炎、お前だな…お前が奴に頼んだんだろ」
「い、いや、ナンノコトダカ…」
「覚悟は出来ているだろうな」
「何の覚悟だよ?!」
氷麗の後ろでは笑顔の疾風ちゃんがいた。彼女は基本的にそういう性格ならしい。氷麗の目線がこっちに向く。
「お前等はもう帰れ」
こ わ い !
視線が突き刺さって風穴あけてる感じがする!!
「は、い!」
「え〜まだ…」
「キョウタは黙ってろ!!」
初めにもらった札に何でも屋の住所を国名から書きこんで握り締めた。
渋っているキョウタの腕をひっつかんで引き寄せると、また光に包まれて風景が消し飛んだ。
――光の遠くで聞いた叫び声は、赤い彼の物だろうな。ご愁傷様。