V〜翡翠騒動〜
「まさか」は一生付きまとう。山があって、谷があって。そうやって生きていくから。
コヒメは全然乗り気じゃない。
「やってみなきゃ分かんないでしょ?」って言ったら渋々な感じを全面にだしながら手を乗せてくれた。
「何を念じるんだ?」
「どこかに移動するところをイメージするといいですよ」
「そんじゃ、れっつ想像!」
僕は目を閉じて、仕事に行く時を思い出す。家から一歩、また一歩と進んでいく感じ。
「ではお気を付けて」
ノビルニオさんが手を振る映像が遙か遠くへ流れて行く。
まるで電車に乗ってるみたいに周りだけが走っている。
景色が止まったら、そこは大きな部屋の中。
僕とコヒメは3人の男の人の丁度真ん中くらいに立っていた。手の上の紙は砂となって消えた。
「…」
「……」
「………」
白い人と髪の長い人とデカい人がいて、ずっと僕達を見ている。
「どーも、初めまして☆何でも屋で〜す」
コヒメにすっごい顔して振り向かれた。挨拶しただけなのに。
「なっ、ななな何奴!!?」
「…どこから入った?」
デカい人は相当驚いてるみたいだ。髪の長い人は落ち着いているけど警戒オーラでいっぱい。白い人はただ見ているだけ。
「お…俺ら怪しいモンじゃねぇよ!…つっても怪しいよなこれ……」
「仕事に来たわけだし、そこは信じてもらわないと」
「何をコソコソしておる!怪しい…怪しいぞ!!この増長天が成敗してくれるわ!!!」
2人で相談していると、デカい人が痺れを切らして突進してきた。あの人ゾウチョウテンって言うんだ。
「ぎゃああ!?来るな!止めろ!!」
「コヒメ落ち着いて。ほら、あっち行ってて」
コヒメの肩を押して、デカい人の的からはずす。間合いが詰まってくる。…銃はいらないかな。
「くらえ賊よっ!!」
目の前にデカい人が迫る。半歩前へ出ておく。
「何でも屋って言ってるっしょ!」
相手の右足が地に付く寸前に、その足を外側から内側に思いっ切り蹴る。デカい人はそのままバランスを崩して僕の右側に倒れ込んだ。
「な…に……!!」
デカい人は勿論、コヒメも髪の長い人も白い人もみんなが唖然としている。髪の長い人が白い人の前に立ちはだかった。
「話も聞かずに徹底排除って??ケンカなら買うよ」
嫌みっぽく言ったのに、白い人はとても楽しそうに笑っている。髪の長い人が剣に手を掛けた。
「待て持国天」
初めて聞く声。白い人だ。髪の長い人はジコクテンというらしい。
「喧嘩など売るつもりはない。無礼は詫びる。話も聞こう」
「そう?じゃあ」
端っこに避難していたコヒメに手招きをする。おっかなびっくり僕の左隣にやって来た。
「仕事の話はコヒメからよろしくー」
「はいはい、じゃあまず依頼主は誰だ?これ書いた人なんだけど」
コヒメは上着の内ポケットから封筒を出した。中から手紙を出して読むつもりらしい。
「えーと内容は…」
「――!」
今まで笑っていた白い人の表情が一変する。突然立ち上がったと思ったら強風と共にそこから消えた。
「うひゃあ、すっごい風!コヒメ大丈夫……」
僕の左側には誰もいない。今さっきまでコヒメがいた所に、何もない。なんで?
まさか あの白い人のせい ?
「――ウソ、ついたね」
ケンカ売るつもりはないって言ったのに
「…どこにいった」
だましたな
コヒメはどこ
かえして
「全く…帝釈天様も唐突なことをなさる」
「どこに行ったのやら某では目で追えん」
知らないうちに僕は両手に銃を持っていた。それぞれデカい人と髪の長い人に1つずつ向ける。
髪の長い人の顔の横を通して、誰もいない机に1発。
立ち上がりかけたデカい人のすぐ近くの床に1発。
「タイシャクテン、コヒメを返せ。死人を出したくないなら今すぐに」
また、風が吹く。
「面倒な奴だ!お前も来い!!」
何かに引っ張られる。
あまりの強風に一瞬目を閉じたら、既にさっきとは違う部屋になっていた。コヒメもそこにいる。すぐさま駆け寄った。
「コヒメ!怪我とかしてない?!」
「俺は大丈夫だ…って、どうしたお前?」
「ったく、そんな物騒な物出すなよ」
タイシャクテンの声。反射的に引き金を引く。
「キョウタ!!止めろ!!」
「…危ないな」
避けられた。気にくわない。もう一度銃口を白色に向ける。
「待て、何もしない!俺はただコイツの持っていた手紙をあの場で読まれたくなかっただけだ」
「………」
「いい加減銃を下ろせ。大体あんな所で読まれると思ってなかったからな…」
そんな弁解、いらない
「言い訳?止めろ見苦しい。なんと言おうとコヒメを攫ったのは事実だ」
タイシャクテンは面食らったような顔をして、話すのを止めた。
「…そうだな、失礼した。先ずは何より謝るべきだったな」
深く頭を下げ、そのまま言葉を続ける。
「すまなかった」
…そんな風に謝られたら僕の方が悪いみたいじゃん。
「あ…いや、僕こそいきなりゴメン…スミマセンでした」
思わず僕も謝った。らしくない、なんて誰より僕が思ってるよ。
「この手紙どうします…?」
コヒメがこそっと手紙を取り出して話を戻そうとしている。そういや依頼の話しなきゃ。
「依頼内容は確か“うるさい部下を黙らせて下さい”だよね」
「届くわけないと思って半分ふざけて書いたヤツだが…」
「まぁ、せっかく届いたから出来るだけやるよ」
「でもキョウタ、黙らせるってどうやってだ?」
「じゃーあ〜…」
3人で作戦会議が始まった。
「よーし、じゃあこれで行こ〜!」
「おい…本当にこんな事でいいのか…?」
「俺が良いと言ったんだから良い!行くぞ!」
突風が吹き抜けたら、さっきの広い部屋に戻った。あの2人も変わらずそこにいる。
「帝釈天様!!御無事ですか!?某は心配で仕方ありませんでしたぞ!」
「当たり前だ。大袈裟な」
さぁて作戦開始!
「いやぁ〜さっきはスミマセンでした!あ、でも僕らが仕事に来たってのはホントだから信じてね?」
「…その仕事とはどの様なものでしょう?」
髪の長い人、ジコクテンって言ったっけ。その人が聞いてきた。どうも警戒心が強いみたい。
「えっとその前に自己紹介、僕はキョウタ、そんでこっちがコヒメ」
「どうも」
「で、仕事って言うのは〜この城の大掃除を頼まれてて!でも場所がよく分かんないんで案内して下さい!」
因みに僕らの『本当の仕事』は《帝釈天を建物の外に出し、不在を悟られないようにする事》に変更。
2人の注意を僕らに長いこと引き付けるために立てた作戦が「城の大掃除」ってワケ。
「手分けしてやるんで、ジコクテンさん僕の案内お願いしまーす」
「分かりました」
「俺の方は増長天さんに手伝ってもらっても?」
「お任せあれ!」
帝釈天が帰ってくるまでの大掃除。どうやって引っ掻き回そうか。