「揃いましたか?」


態度はいつも通り。声もなんとか直ったし薬のお陰で熱は微熱程度まで下がった。身体の怠さと頭痛は一向に消えないが
30分程度の殲滅任務を我慢すれば問題ない。後にあるディスクの情報解析はいっそのこと明日朝一でやればどうにかなる。

まぁそれぐらい刀を除く部下二名に任せる事もできるのだが。


「では行きましょうか……ジャッカル、リカオン、クルペオ」


コヨーテ直属の部下。

戦闘に長け血の狂気に生きる常識と空気を知らないジャッカル

凄まじい頭脳力を持つ果てしなく腹の黒いリカオン

そして冷静沈着、絶対服従を誓う存在感の薄すぎるクルペオ

彼等とコヨーテの地獄の任務が今始まろうとしていた。












 ぐらりと視界が揺らぐ。覚束なくなる足で無理矢理地面を踏み締めながらコヨーテは歯を食いしばった。隣でジャッカルがコヨーテの背から取り戻した刀を嬉々として振るっている。余談になるがジャッカルは無類の刃物好きである。刃物を手にした日には近くにいる一般人に切り掛かっても可笑しくない程なため、ジャッカル愛用の刀は戦闘時以外いつもコヨーテが預かっている。


(―――最悪だ)


鮮血の臭う中コヨーテは吐き気に襲われていた。下がった熱が振り返したのかいつもに増して息が切れる。


「コヨーテ様」


そんな折ふいに声をかけてくる者があった。


「………クルペオ」

「どうされました…顔色が悪いようですが……」

「何でもありませんよ」

「しかし―――」

「任務に集中しなさい。貴方が今気にかけるべきは私ではない」

「……………御意に」


間を有した後、静かにクルペオが頭を下げる。そして素早く敵陣をすり抜けると、リカオンが先に向かった実験内容の記されたディスクのある部屋を探しに、奥へと消えていった。


「クルペオの鋭さには肝を冷やしますね………」

「あぁん?何か言ったか?」

「いえ、別に」


いったい何人斬ったのか。
真っ赤に染まった刀を舐めながらジャッカルが怪訝そうにコヨーテを見ている。コヨーテは小さく息を零すとそっと目を閉じた。


「ジャッカル」

「んだよ」

「一気に方…付けますよ!」


ゴッとコヨーテの周りを勢いよく風が吹き荒れる。それを見てジャッカルは妖しくニタリと笑み低く構えた。


「上等だ!!」


風の刃と血濡れた刃に断末魔の叫びが飲み込まれた。












 「あー斬った斬った!」

「何だかジャッカルさん…あー食った食ったって言ってるみたいですよ」


組織の殲滅とディスクの回収を終えコヨーテ一派は街から離れた薄暗い森の中を歩いていた。組織自体が街の外れにある森の最奥にあるため、本部へ任務報告へ行くにはこの森を抜けなくてはいけないのである。勿論行きも森を通るルートで組織へ向かったため、何ら苦になる道程ではない。しかしあくまで、それは“正常な身体”である者に限る話しである。

風邪であるのに関わらず戦闘と言う激しすぎる運動をしたコヨーテに取って、この道程は最後の一押しをされたと言って過言でない。

限界へ達する最後の一押しに


「ふん!満足感が得られんなら似たようなもんだろ」

「確かにそうですけど……って何そんなジト目で僕の事見てるんですか」

「お前の場合あー面白い面白いだと思って」

「何でですか?」

「カードゲームとかすっとお前目茶苦茶楽しそうじゃねェか」

「あぁあれですか。ジャッカルさんは楽しくないんですか?」

「は?」

「ゲームにはそれぞれ勝つための近道っていうのがあるんですよ。なのに皆それに気付かずに遠回りばかり……バカらしくて笑えてきません?」

「黒!お前腹ん中黒すぎだろ!」

「それはそうと、じゃあクルペオさんには何が合うと思います?」

「あぁ?クルペオ?あいつは―――………」

「……………」

「…………………」

「………………………」

「……………………………………………………………………………………見つかんねェよ!!」

「クルペオさんはあんまり喋りませんからね………」

「だよなーってかこのノリでいくとコヨーテのも考えんのか?」

「あ!いいですね!コヨーテさんは―――あれ?コヨーテさん?」


 ジャッカルとリカオンのくだらない会話が微かに耳に届く。己に向けられた言葉に返事をしようとして口を開いたが、肝心の言葉は掠れた音となって空気に溶けた。

もう

声すら出ない


「え?コヨーテさん!?」

「コヨーテ様!!」

「ちょっ…オイ!どうしたってんだよ!!返事しろコヨーテ!!」


熱い頬が地に触れる

何度も呼ばれるその名が

―――耳障りでならなかった

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