目を開けばそこは灰色の世界だった。切り裂かれた足から鮮血が溢れ出し地面に伏したまま身体はピクリとも動かない。ただ血と埃に陰る瞳が倒れ行くあの人を捕らえた。
嗚呼―――――あの人は
この混沌としたアカき世界で唯一人尊敬に値した
唯一人の―――――
「起きたか?」
生温い雫が頬を伝い落ちる。薄く開いた瞳が捕らえたのは灰色の世界でもあの人でもなく、見慣れた碧の瞳―――
「ジャッカル………」
朝以上に掠れた声は辛うじて聞こえる程度の音しか発することを許さなかった。それの何処が面白かったのかジャッカルが苦笑する。コヨーテは眉を吊りジャッカルを睨んだが扉の開く音を聞き視線を移した。
「起きたんですね!コヨーテさん!!」
「……お身体は大丈夫ですか」
扉からひょこりと顔を覗かせたリカオンがみるみる満面の笑顔となりコヨーテの元へ駆け寄ってくる。コヨーテは苦笑しながら辺りを見渡しクルペオへ視線を向けた。
「私の部屋ですか」
「はい。コヨーテ様が倒れた事は私達しか知りません」
「任務の方は」
「上層部への報告はすでに済んでおります。ディスクの情報は只今解析中です」
「上出来です」
バキバキとしなりそうな身体を反転させながらコヨーテは微かに笑む。そして部下らに背を向けたまま掠れた声を絞り出した。
「各自部屋へ戻り休息を取りなさい」
咳込みそうになるのを歯を食いしばって耐えそっと目を閉じる。まだまだ熱い頭にバタバタとした足音が響き渡り、早く出ていけと心中で悪態をついた時、扉の閉まる音が聞こえた。
「なな何をするのですか!」
「るせェな!さっさと治療しねェと叩っ切るぞボケ医者!!」
何故
「んーと布団ってこれくらいあればいいんですかぁー?」
何故
「咳、鼻水、熱、頭痛……一重に風邪と言っても薬の種類が多いですね………」
何故
「何がどうして、どうすればこうなるんだ………」
耳障りな音にコヨーテは耳を塞ぎたい衝動に駆られる。白い枕に深く顔を埋めるがその音は留まる事はない。ギャアギャアとジャッカルとどこから連れて来たのか、ぐるぐる眼鏡を掛けた医者が言い争いを繰り返す音は最高な雑音でコヨーテはゆっくりと閉じていた橙黄色の瞳を開かせた。
「………おい」
「んだよもうちょい待って………―――」
「命令に背くか」
鋭く睨めばジャッカルとその後ろの部下二名の動きがピタリと止まる。そして全員が全員揃って気まずげに視線をそらした。と言うのもこの部下らは部屋を出て行ったと思ったら命令に背き再び部屋へ入って来たのだ。しかも皆が皆おまけを付けて帰って来た。
どっかの医者を連れてきたり
大量の布団を持ってきたり
多種の薬を持ってきたり……
「出ていけ」
意図的に低くした声で再度命令を下せば、しかし部下らは予想外の反応を見せた。
「や・だ!!」
「いやです!!」
「聴き入れられません」
そういうことらしい。
「お前ら―――っ」
「だってコヨーテさんが心配じゃないですかっ!」
「風邪は万病の元と言います。コヨーテ様の身に何かあってからでは遅いのです」
「そうだぞ!テメェは俺らのリーダーなんだからこんなとき位頼りゃいいんだよ!!」
言ってジャッカルがニヤリと笑う。今までにない完全に命令に背く態度にコヨーテはただ呆然と目を見開いていた。それに気分をよくしたのか、リカオンが大量の布団をコヨーテの頭から足先まで一気にぶっ掛けた。
「まずは身体を温めて下さい!」
「ちょっ………」
「薬は置いておきますから食後に飲んで下さい」
「………クルペオ、貴方まで」
「よっしゃ!メシ作んぞ!」
「それだけはやめなさい!」
ケラケラと笑いながらジャッカルが医者の肩に手を回して台所へ消えていく。コヨーテは妙な汗を流しながら、ぶち当たった一つの疑問を全精力を掛けて説き明かそうとしていた。
(どうして―――)
どうして、こんなにも
たかが上司
たかが知人
たかが他人に
何故こんなにも
(明日には直る風邪だ。看病してもあいつらにさして利益など)
「利益は関係ありません」
ふいに聞こえた声にらしくもなくびくりと肩を震わす。ベットの隣にいつの間にかクルペオが控えていて、コヨーテは苦笑しながら小さくため息を着いた。
「読心術は止して下さいよ」
「御意に。ですが一言言わせて頂きます」
コヨーテに掛かった大量の布団を整えながらクルペオが小さく言い放ったのだった。
「貴方が大切だから、皆貴方の心配をするのです」
目を開けばそこは灰色の世界だった。切り裂かれた足から鮮血が溢れ出し地面に伏したまま身体はピクリとも動かない。ただ血と埃に陰る瞳が倒れ行くあの人を捕らえた。
嗚呼―――――あの人は
この混沌としたアカき世界で唯一人尊敬に値した
唯一人の―――――
「………■■さ……ん」
手を伸ばしても届かない
血濡れた手が地に落ちて深く血を吸った土を爪でえぐる
「くそ…………っ」
霞んだ瞳が漆黒に彩られ始めた
地に落ちた手が漆黒に飲まれ出した
その時
「何してんだよ。らしくねェな」
ポンと手の上に置かれる白い手
凄まじい程の早さで視界に色が溢れ出す
「起きろよ。時間だぜ」
耳に入り込んでくる聞き慣れた声。いつしか世界は空が透き通りあの人の姿も見当たらない。ただ代わりのように見えたのは
「―――ジャッカル」
目を開けばそこは相変わらず己の部屋だった。幾分かましになったのか頭痛はなく、難無く身体を持ち上げる事も出来るように思われた。しかしどうして、身体がピクリとも動かない。
(何だ?)
妙な圧力が掛かっている。かろうじて動く首を回して腹の方を見ればその原因にコヨーテはもはや癖となりつつあるため息をついた。
「お前らが寝てどうする……」
コヨーテの頭に近い部分からジャッカル、リカオン、クルペオの順で全員がベットに頭を引っ掛けながら寝息を立てている。リカオンとクルペオはコヨーテの身体に頭が乗らないようベットの隅に頭があるがジャッカルはお構いなしで腹の上に頭を乗せていた。
「このバカは」
コヨーテは手の平に力を入れるとジャッカルの頭を殴ってベットから落下させた。
こんな生活を望んでなどいない
この世界はアカく混沌とした戦の終わりなき世界
安息などありはしない
けれど、たまには
(こんなのもありか)
そう。たまに、ね
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後書き
黒月狼熊様が月星風のPC版サイトで500のキリ番を踏まれたため書いた作品です。今回は危機で行かせていただきました!!
いかがだったでしょうか?ふつつか者ですがいつまでもコヨーテさんを愛し続ける自信はありますので、是非これからも書かせていただきたいです(笑)
黒月様リクエストありがとうございました!!
黒月狼熊様作オリジナル漫画「Writing!」より
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カッコよすぎてもう何も言えません・・・!!ぁああああありがとうございます!!!!
コヨーテへの愛が満ち溢れている(笑) コクガチよりもコヨーテのことを分かっているのでは!?
また書いてくださるというのならぜひともお願いしたいです♪(お前)