「どーもコヒメから話は聞いたよ。えーとハクスイ?」
「おいキョウタ!!さん付けくらいしろよ、年上だろ!!」
「“元の世界へ帰りたい”だったっけ?いいよ、見合う報酬があるなら引き受けようじゃないか。僕らは何でも屋だからね」
ニコリ、目の前の少年が笑う。細く切れ長の深緑色の眸と後ろで括った長髪が印象的であった。
事は数十分前に遡る。
見知らぬ地で右も左もわからないような状態であった帝釈天に声をかけてきた少年は、“こひめ”と言う名前であった。字は虎を秘めるで虎秘と書くらしい。
些か妙な声のかけ方をされたが、頼れる相手が誰一人としていなかった帝釈天に取って、それは何物にも変えがたい救いであったため、帝釈天は直ぐさま虎秘を頼る事にした。
“元の世界へ帰る方法を教えて欲しい”
言って直ぐは、虎秘も状況を読み込めないのか目を白黒させていたが、ここにいたる経緯をかみ砕いて説明していったら理解したのかはたまた諦めたのか、
そういう類の話しは“あいつ”に頼むべきだから着いてこいと言われ、今にいたる。
どうやら目の前の少年がその“あいつ”のようである。
「ここは俺の知らぬ次元のようだからな……白翠でも帝釈天でもどちらでも構わん」
「そのタイシャクテンってのは言いにくいね、やっぱハクスイでいいや。てか名前二つもあるの??凄いねー」
「帝釈天は冠名。白翠の方が本来の名だ」
「ふーん。話を聞く限り、確かに次元とやらが違う世界の住人みたいだね」
虎秘が“きょうた”と呼んでいた目の前の少年が顎に手を添えながら帝釈天の身体をジロジロと眺める。
虎秘が“きょうた”の着用する衣服の、首辺りから背中へ目掛け垂れ下がった袋状の布を引っ張ってそれを制した。
「ジロジロ見すぎだ!!あと自己紹介ぐらいしろよ!」
「んーそれもそうだね。僕はキョウタ。暁に蛇で暁蛇(キョウタ)だよ」
あっさり告げられた名に、最初からそう言えばいいのに、いつもいつも……と、虎秘が嘆息と共に呟く声が聞こえる。
どうやら虎秘は暁蛇とやらに振り回され気味であるらしい。
ご愁傷様、とは今の己の立場がご愁傷様過ぎて口にする事ができない帝釈天であった。
「じゃ、まずはそっちの次元…て言うか世界の話を聞かせてもらおっかなー。探索はそれからだね。生憎僕らは“次元”ってのが何なのか言葉だけじゃわからない」
「ふむ、そうだな―――」
そんなこんなで帝釈天は何でも屋の琥珀の眸の少年、虎秘と深緑の眸の少年、暁蛇の手助けの元、元の世界へ帰る手立ての探索を開始したのであった。
参 紅ノ帽子