どうにも居心地の悪さを感じる。
原因は分かっている、パーカーの友人と紅帽子の門番が同じ様な視線を俺に向けているからだ。
にやけた視線が手に持つ小銃を見ながらでも分かる程。

「用は済んだだろ!帰るぞ!!」

それを振り切ろうと勢いよく立ち上がる。本当は有無を言わさず帰るつもりだったが。

「待て、少し聞きたい事がある」

紅帽子に呼び止められた。もう彼の顔は笑っていない。一番初めの遭遇時のそれと似ていて、再度体が強ばる。

「それ何に使うつもりだ?」
「聞いてどーすんの?」

キョウタが座って菓子に手を伸ばしながら聞き返す。まだ食ってんのかコイツは!

「ヤバい事に使われたりすると後でこの店が厄介な事になるからな」
「厄介?」
「というより面倒だ。名簿見せろだの顔は覚えてないかだの…」

何かを思い出し苛立っているようだ。
またも顔が怖くなっている紅帽子に再度睨まれちゃたまらないので椅子に戻る。

「俺らはそんなじゃないから落ち着いてくれよ」
「なら隠す必要もない。話してもらえるだろう?」
「…俺、よく知らないんだよ」

本当の事を言ったまでだったのだけど、不信な視線がこちらを向いている。
怖いんでその顔止めて欲しいなぁ…!
とにかく俺は無理矢理言葉を選び出した。

「流れ星を探すのにいるらしいってのだけ聞いた!!」
「……流れ星?」

胡散臭さ爆発。墓穴掘ったかもしれない。
情けなくビビりっぱなしの俺を助けるようにキョウタが言葉を続けた。

「宝探しの護身用だよ。正当防衛以外で人間撃つ予定はないって」
「――そうか」
「ちなみに僕ら何でも屋だから護身用に銃の2・3持ってて不思議じゃないでしょ?」

紅帽子は納得したのか威圧感を引っ込めた。
俺はキョウタに感謝を告げようとしたが、現在進行形で菓子を貪っているのを見て止めた。
そいつはさておき仕切り直しますか!

「ここで買った銃は悪用しない。誓うよ。だから帰っていいだろ?」
「えーもうちょっといようよ」
「人様の家なんだから遠慮しろ!!!」
「まだ食べたい!」
「お前食い気と人間性を引き換えにする気か!!?」

はっとして紅帽子の方を勢いよく向けば、肘をついてまたしても口角を少し上げている。
何が面白いのか俺には分からないが心底愉快そうな顔だ。

「また来い、歓迎する。ただし表から来たときだけな」
「そ…その節は……スミマセンでした」
「今度来たときもお茶菓子出してくれる?」
「キョウタ!!」
「ははは…帰りは是非ともこっちから出ろよ」

深紅のキャップの門番は表口に俺達を案内し、見送ってくれた。
表口は物騒な武器商なんかではなかった。小さな、花屋だった。
店の前に立ってまるで演劇のカーテンコールのようにお辞儀される。
帽子と表情は相変わらずのままで。

「今後とも“フラワーショップ”をご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます」

演技めいた紅帽子の台詞に吹き出しそうになった。





扉を開けたままコヒメが固まっている。鍵を渡して開けさせたのにこれじゃ意味がないよ。
どいてくれないと僕が入れない。何やってんのかなぁ?

「戸の真ん前で止まったら邪魔だよコヒメ」
「え、あ、あれ、なん」
「なに?分かんないよ」

後はもうぱくぱく口を動かすだけで、家の中を指差すことしかしなくなった。
覗いてみると床に物が散らかっている。よく見れば奥の机の上も荒らされている。

「あれ…玄関鍵掛かってたよね?」
「今俺が開けるまでは…」

コヒメを押しのけて中に入る。ポケットの中を探って銃を取り足を進めた。

誰か、いる。

気配はベッドの上あたり。


「―――キョウタ?」
「静かに」

話しかけるコヒメを黙らせて僕だけで部屋に踏み込む。壁に背を付けて安全装置を外す。
部屋へ入りざま銃口を気配へ向ける。気配は形があった。侵入者と目があう。

「……なんだ、君かぁ。コヒメ大丈夫、出て来て」

銃をポケットに突っ込んで息を吐く。

「え、どうなったんだ?」

コヒメは家政婦が見ちゃった感じで顔を覗かせている。
大丈夫だって言ってんのに…ホントにビビりなんだから。

「僕の知ってる子だって」
「知ってる子?」
「しかも女の子。きっと僕の後ついて来ちゃったんだねぇ」
「え…ストーカーでも付いてんの…?」
「ちーがーいーまーすー!!この子は〜」

依頼で知り合ったの、と言おうとしたけど彼女に飛びつかれて続かなかった。がっしり掴まって離れない。

「あれれ…おーい離れてよ」
「それが、知り合いなのか…?」
「うん」
「そいつ…名前は?」
「リリちゃん」

あぁやっぱりか、とコヒメが呟くのを聞きながらでやや長めのフワフワな毛並みを手から床へ離す。
文句を言うように、にゃあとひと鳴きして座った。

「そーいえば窓閉めてなかったかも」
「不用心!!」

机の上方にある窓を見れば猫が通れるくらい開いている。
侵入通路はきっとあれだね。

「で?どうすんだこの猫」
「お家にお送りするよ。さぁ帰ろっかリリちゃん」

手を差し出したら威嚇の声と一緒に手をひっぱたかれた。

「…拒否られちゃった」
「帰りたくないんじゃないのか?」

にゃおう、と低く肯定を意味するような声。

「コヒメこの住所まで走ってきて伝えてよ」
「何で俺…?」
「僕は仕事場に電話するからコヒメは家に連絡係り!」

渋々コヒメが走り出したあとに数字を指で追う。
繋がったと思ったら <現在使われておりません> の電子音声。
二重に拒否られた気分なんだけど。どういうこと?

扉が乱暴に開けられコヒメが転がるように入ってきた。

「どした?」
「家が…住所の、とこ、空き家に、なってた…!!」
「――へ?」

夜逃げとかかな…こんないきなりいなくなるなんて。
……てことはリリちゃんは居場所をなくしてここに来たんだ。

「…こりゃ、追い出せねぇ、な」
「何でも屋に新人登場だね」

相棒の了解も得たうえで、新入、というか侵入社員が1匹仲間入り。
リリちゃんは息を切らせるコヒメにすり寄っていた。看板娘でもやってもらおっかな。
………そういえば「流れ星」のことを忘れかけてた。話題に出さなきゃ。

 

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