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5時間も花屋の店番をして、俺が得たのはメモが1枚。納得できる奴がいるならお目に掛かりたい。
隣でのんきに歩いている、この疑問の発生源に色々とぶつけてみたいと思う。

「おい、俺の労働力は紙切れ1枚にしかならねぇのか?」
「紙切れじゃないよ。それ引換券なんだから」

右手のメモが風に揺らめき存在を主張するかのように音を立てる。
何故だ?キョウタに質問すると疑問が増える気がする。
…これは気のせいじゃないだろ。

「引換券って何の」
「銃の。あの花屋のおっちゃん武器商にコネあるんだ」
「武器商?!花屋がなんで??!」
「若い頃に第一線で将校やってたんだって。その時からの付き合いらしいよ」

遠い昔、『人を見かけで判断するな』と教えられたのはこういう事にならないためなんだろうか。
今更気づいた。遅すぎる発見は為にならない…。





コヒメは間抜けな顔で、あーとかえーとか唸っている。
まぁ納得いかないのは頷けるよ、確かに花屋のおっちゃんは穏やかそうな人だもん。
似てる人を挙げるならサンタクロースに似てるかな。

それはいいとして。確かメモの住所はこの辺りだったよね。

「そろそろ目的地周辺で~す」
「カーナビかお前は」
「音声案内終了しちゃう?」
「端っから頼んでねぇし、案内もしてなかっただろ!」
「あ、そこ右曲がって突き当たり」
「…どーも」

薄暗くて細い道を青いインクの文字列頼りに2人で歩き回ること30分。
花屋と仲良しの武器商に辿り着いた。控えめな扉に出迎えられる。
「雰囲気的に裏口なんじゃないか?」
「入れれば一緒じゃん?」
「一緒じゃねぇよ!そのいい加減さどうにかしろ!!」

コヒメの言い分は置いといて扉を2・3回叩く、つもりだった。その一歩手前。

「お客なら表口から入んな」

頭上から降ってきた声に手を止める。金属の擦れる音が響く。
僕はとっさにポケットの中のハンドガンに手を掛け身構えた。

「コソ泥ならカッ消えろ」

屋根から今度は人が降ってきた。次の瞬間には声が後ろから聞こえる。振り向くどころか銃を出すヒマさえない。
頭の右側に固い金属の塊が押し付けられる。姿や顔は見えなくて、代わりに少し銃身が見えた。

「ね、それテーザー銃?最新のヤツだよね。いいなぁ、電気銃って一回使ってみたいんだよね~」
「……」

反応無し。ん~、僕ちょっとピンチかも?





やっぱり裏口だったみたいだ。あいつは緊張感なんか欠片も持っちゃいないが、頭に銃を突き付けられている。
やっぱりセキュリティーしっかりしてるなぁ。

ってそんな事考えてる場合じゃねぇ!!!

「あ、あのさ…俺達は」
「2人組で空き巣か?」
「違ぇよ!!」
「なら何しに来た」

警戒のためか低くなった声と、深くかぶられた深紅のキャップ下の鋭い目に威嚇され立ちすくむ。
その一瞬でもう一丁銃が現れ俺に銃口が向けられた。

――どうすればこの状態を打破出来る…?!

思わず力の入った右手から存在主張の音が聞こえた。忘れていた、そういえば救世主はこんな所にいるじゃないか。

「買い物に来たんだ!これで信じてくれるだろ!」

右手を裏口の門番に向けて突き出す。メモ用紙がガサリと一際大きな音を立てた。
門番は紙に顔を少し近づけ、その後すぐに銃を下ろした。

「本当にお客だったか…次は表から来いよ?」

5時間分の労力で無事生還。やっと報酬に納得できた。





「さっきは悪かったな」
「どっちかというと…それは俺達のセリフだよな…」

最終的に裏口から入らせてもらって、お茶とお菓子まで出していただいてしまった。
そんな中、騒ぎの元凶は菓子をバクバク食っている。
一発くらい打たれりゃ良かったかもしれないと思ったのは黙っておく。

「店主は今ちょいと用事で出てってる。だから今日は俺が相手させてもらう」

やっと紅い帽子の門番の全貌が明らかとなった。性別は男、多分歳は20代後半くらいだろう。
あまり人相の良い方じゃないけれど、悪人ではなさそうだ。

「じゃ、コレと交換出来るヤツ出してもらって良い?」

キョウタがいつか見たことのある銃を机に出す。この前俺に投げて寄越したものだ。

「リボルバー式のヤツよろしく」
「銘柄指定は」
「特にないかな。価値的に見合うの最優先」
「小さめのでいいか」
「下手に大きいのよりはその方が。あと出来れば黒基調ので」
「ちょっと待ってろ」

深紅の帽子はキョウタの出した銃を持って店の奥に消えた。
完全に俺おいてけぼり食らってる…?。
でも分からない話には入っていかない方が賢い。18年生きてきて学んだ事だ。

「コヒメ!なにボーッとしてんの?」
「え、あぁ…いや…俺関係無い話だったから」
「あのねぇ、何のためにココまで来たと思ってるわけ?!」
「流れ星探しにどーのこーのって言ってたからだろ」
「それも確かに言ったけど!もしかして覚えてないの?」
「覚えてない、って何をだよ…」

奥にふと目をやると、深紅の帽子は口角を少しばかり上げて、壁にもたれこちらを見ていた。

「お前等仲良いな」
「…んなとこで見てないで早く持ってきてくれよ!」
「はいはい只今」

そのままの顔で机にさっきとは違う銃を置く。表情くらい直せよ。
キョウタは気にせずそれを素早く手に取り360度眺めている。

「いーんじゃない?コレならコヒメも気に入りそうじゃん」
「は?何で俺?」

何で、はこっちの台詞だと言わんばかりに睨まれ、同時に眺め回していた銃を俺に突き出す。
呆けていたら、珍しく溜め息を吐いたりして不愉快さを全面的に表に出された。

「銃ならオートマよりリボルバー式の方が良い!って聞いたけど?」
「ぁ」
「誰が言ったんだったかなぁ?」
「……俺…だな」

――じゃあキョウタは俺のためにこの場所を聞き出してきたっていう事か?――

疑問を声にすることも出来ないまま。
受け取った黒い金属の重みが代わりに答えている。
…そういえば黒は俺の好きな色だ。これが問いの答えか。
今度はもう突き返す事なんて出来ないな…。


視界の端で笑うパーカーと深紅の帽子が、少しだけ目障りだった。

 

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