何でも屋』ってのは名前の通り、可能な限りなら何でもする。
そりゃちょっとは依頼人や依頼内容選ばせてもらうけどさ。後で面倒くさいことになるのは避けたいじゃん?
裏会社関連に首突っ込む羽目になるのも危ないし。
でも、楽しそうな事につられると結構な割合で、ソッチ関連だったりするんだなぁこれが。

「キョウタ」
「なんだい相棒?」
「やっぱ強制決定されてる!!」

仕事の相棒になったコヒメがあからさまに嫌そうな顔で話しかけてきた。
そのわりに逃げ出したりしないあたり、諦めてんのか協力的なのか、よく分かんないかも。

「今日はなにするつもりなんだよ」
「ちょい待ってね」

僕はパーカーのポケットからメモを取り出す。

「本当に何が入ってんだお前のポケットは?!」
「今日やる依頼はえーと、迷い猫の捜索でしょ〜それから花屋の店番に、引っ越しの手伝い!」

メモを読み上げると、今度は不思議そうな表情に変えていた。

「あれ意外と平和的…それだけか?」
「そーだよ」

なら手伝ってもいい、とコヒメが安心したように言ったのを聞いてから言い足す。

「――今のところは、ね」

あ、動かなくなった。







結局今、俺はキョウタの家にいる。人通りの少ない大通りから離れた路地の奥。ひっそりとした場所にそれはある。
これはもうここに住み着くべきか、家から荷物持って来るか、それなら部屋返さないと
…と思考を巡らせながら会話をしていたが、いきなりその回路を遮断しなければならなくなった。
メデューサだったかゴーゴンだったか、とにかく石化系の能力を持つ化け物に睨まれたような気分だ。狙ってたなあのヤロウ…!!!
何にせよ、俺は蛇に睨まれたなんとやら――逃げることは不可能。こうなりゃもうどうにでもなれ!今日も元気に巻き込まれます!!

「まだ増える予定あるのか!あるんだな?!」
「まだ分かんないけど〜増える確立高い」

のらりくらりな受け答えに少し神経を逆撫でされる感じがしたそんな矢先。

―――コンコンコン

とんだ非日常が扉を叩いたのだった。




キョウタが返事をすると、おそるおそる戸が開かれる。頭だけ覗かせたのは幼い少年。

「なんでも屋さんってここですか…?」
「はーいそうです、今日は何のご用で?」

中を見回してから少年は忍び込むようにそっと入ってくる。
そのまま突っ立ってキョロキョロしているので、その辺にあった椅子を差し出してやる。
緊張しながら膝を揃えてきちんと座る所を見ると、きっと育ちが良いんだろうな。
小さな依頼人は顔を上げ、真剣な目で俺達を見据える。

「あの…お願いがあるんです」
「ん?」



「流れ星を、さがしてぼくにください」



自分の耳を疑ったが、聞き間違いでも少年の言い間違いでもないことは明らかだった。
今度は二人で石化することになるとは思ってもおらず。
キョウタに至っては細い目を3倍くらいに見開いていて、一瞬だけだったとはいえいろんな意味で怖い。

「う〜ん…流れ星……まぁ見つかるかどうかは置いといて、面白そうだからやってみるよ。見返りは何?」
「みかえり…ですか」
「報酬無しじゃあ僕も生きてくのに困るしさぁ」

そんなストレートに言わなくていいだろうに。
一応商売なのだから依頼金の話をしても悪くはないがしかし、相手は子供なのだ。
もう少し上手い言い方があるのではないかと思う。キョウタにそんな事を期待しても無駄なことは知っているが。

「では、これでどうでしょう?」

少年はシビアな話をされた割に微笑みを浮かべながら、上着の内ポケットから一つブローチを取り出した。
深緑の大きな石。細かい細工の金縁があり、その部分は ――何かの紋章だろうか―― 幾つか動物の装飾が確認出来る。

「うはぁ…そんな良いモン出しちゃっていいの?」

キョウタはそれを手には取らず、差し出されたままの状態で見つめていた。

「盗品とかではありませんのでごしんぱいなく」

やたら確信突いた補足だな、などと考えていると、小さな依頼人はブローチを隣にある机の上に置いて椅子から立ち上がった。
さっき入ってきたドアに向かって歩いていく。軽く会釈をし扉に手をかける。

「ではぼくはこれで」
「おい、これ持っていかなくていいのか?!」
「前払いということでお願いします」

俺は慌てて声をかけたが、落ち着いた言葉で返された。
蝶番の軋む音と、軽く木材同士がぶつかる音が交差する。その奥できっと彼は微笑んでいただろう。

「どうすんだキョウタ」
「前払いイコール拒否は認められない。暗黙のルールだよ。やるしかないさ」
「でも流れ星って…隕石でも持って来ればいいのか??」
「それは後回し!先にリリちゃん探す!!」
「リリって誰だ」
「猫!」

そうか、他にも仕事はあるんだった。







リリちゃんは依頼者の家の倉庫から見つかったし、引っ越しも家具を車に積むだけだった。
花屋の店番はコヒメに任せてたけどもうすぐ帰ってくるはず。占めて5時間弱。

「店番終わった」
「おかえりぃ〜」
「約束の物だ、だってよ。なんだよこれ花の種か?」
「まっさか!」

小さな茶色の封筒と共に相棒のご帰還だ。中身を見なかったらしい。
さっきから思うけどコヒメって変に真面目で息詰まりそう。丁寧に両手で渡される。

「これはフツーにお金。あとその『約束の物』ってやつ」

封筒から中身を引っ張り出し見せる。4枚の紙幣とノートの切れ端に青いインクでサインが書かれたものが1枚。

「はい、これはコヒメの取り分」

利益は相棒と分け合わなきゃね。
サインの書かれたメモを裏返し差し出す。受け取ったコヒメは目を細めて文字の列をなぞっている。

「これって住所、だよな。何でコレが俺の取り分なんだよ?」
「流れ星探しに必要な大事な物がそこにあるから!」
「…お前の言うこと意味分かんねぇ」

愚痴を言ってはいるけれど、視線はずっとメモの方だし歩き出した方角はその住所方向。なんだ以外と乗り気じゃん。
今日はその用事を済ませたら、後は流れ星捜索作戦会議をしよう。

―もちろん2人でさ。

 

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