向かいの通りでは今日も元気に、総勢15人程による物騒な逃走劇が繰り広げられている。
現在AM7:00ちょい前!いやぁ、朝から皆さんお元気で。
こんな風景もこの街では日常茶飯事。そして俺は高みの見物。
だって関係ねぇもん。でも今日はなーんか嫌な予感がするような…。

人混みを縫うように逃げる男が見えた。手には荷物を抱えている。
どうやら追われているのは1人らしい。こういうのって何故か逃げる側応援したくなるよな。


「コヒメ!!」


……今俺の名前呼ばれた気がする。――女みたいな名前とか思った奴、後でちょいツラ貸せ!コヒメってのは漢字で書くと「虎秘」なんだっ!!!

とかなんとか言ってたら逃げてる男がこっちに向かって走って来てる?!
いや、まさかそんな事あるワケないじゃん。見間違い見間違い!

「ほい!パス!!」

鈍く光るトランクを全力投球された。この時ばかりは反射神経の良さを憎むよ。
重い音と共に妙な重量感が手に掛かる。わぁ…夢ならいいのに……手が痛いから夢じゃないな、コレ。

「捕まったら多分死ぬから!」

重大発言を満面の笑みで告げてくれた…アイツ絶っ対に馬鹿だろ!!
あれか、悪い予感ほどよく当たるってか?!


そーゆーことで、朝っぱらの大運動会は14対2になってしまった。







迷路の様に入り組んだ道の奥、細い裏路地へ飛び込み身を潜める。
どこに行っただの、殺してやるだの、大声で叫びながら大勢の人間がたてる足音が横切っていく。
んなこと聞いて出て行くヤツがどこにいるんだっつーの…。

薄暗い道を静寂が支配した。

「おー、上手いこと巻けたね!やっぱコヒメは頼りになる!!」

やれやれと一息ついた所で、男は間の抜けた声で喋り出す。一発ブン殴ってやろうと思ったとき、こいつの声に聞き覚えがある事に気付いた。

「お前まさか…キョウタ…か?」
「え、なんだ気付いてなかったの?」

男は深くかぶっていたパーカーのフードを取る。やたら印象的な細い目と、後ろで1つに縛った長めの茶髪が現れた。
視覚から入ってきた情報より、知っている人物だと確定。

「おい…こんなトコで何してんだお前」
「仕事に決まってるっしょ」
「なら俺を巻き込むな!!大体あんな逃走劇になる仕事って何だ?!」
「今日の僕は運び屋でーす」

気が抜ける返事をする知人に殴る気力さえ失せた。記憶の中のキョウタと何ら変わりなくて、それは少し懐かしくもあった。

「手伝ってくれるよね」
「……何を」
「今日の僕の仕事」

懐かしさは一変、殺意へと変化した。

「手伝わねぇぞ!!俺は知らない!!」
「でも追っ手に顔見られたよねー」
「…う」
「名前も聞かれちゃったかも?」
「それはお前が!!!」
「手伝って損はしないけど、どーする?」

―――誰か俺に2択以上の選択肢をくれ…!!







「そのトランク持ってくれればいいからよろしく!」
「りょーかいしましたー…」

結局神も選択肢をくれなかった。もちろんあの状況では断れる訳もない。一番避けたかった事態が現在進行中。

「追っ手はなるべく僕が全員ノすから」

俺を巻き込んだ張本人はパーカーのポケットに手を突っ込んでハンドガンを出した。

「銃そんなとこに入れてんのか」
「銃以外も入ってるけど?ナイフとか…」
「出さんでいい!!」

『いたぞ!そこだ逃がすな!!』

さっきの追っ手に気付かれたようだ。そりゃこれだけ騒いでいれば見つからない方が不思議だよなぁ。
刹那、銃声。隣にあった木箱に穴。強く背中を押される。

「走れコヒメ!」
「言われなくても!!!」
「鬼ごっこの続きだね〜」
「んなこと言ってる場合か!!!!!」

狭く入り組んだ道で大運動会が再開された。俺はトランクを抱えてひたすら走った。
キョウタは時々後ろを向いてハンドガンをぶっ放している。後ろから罵声と悲鳴が混ざって聞こえた。

「次の道左に曲がれ!!」

声に押され十字路を左に曲がると、さっきより少し広い道に出た。
遅れてキョウタが全力疾走で走りこんでくる。俺を追い越し、すれ違いざまに笑顔で言った。

「出来るなら耳塞いどいて!」

スミマセン、意味不明ですが!

「は?いや無理だし何のために――」

そんな事を、と言ったつもりだったがその声はとてつもない爆発音と振動にかき消された。
驚いて首だけ振り向くと崩れ去る道が目に入った。

「うひゃー!鬼さんみんな巻き込まれてくれたかなー?」
「な、なんで爆発?!」
「運び屋の前に受けた仕事。道広げるから倉庫どかしてくれって頼まれてさ」

走り続けたまま飄々と言ってのける目の前の人物にちょっと寒気がした。

 

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