コヨーテ一派の休日




 鐘が鳴った。
ゴーンゴーンとそれは四度空に鳴り響き、コヨーテはピクリと耳を傾けながら窓を開けた。

「正午か−−−」

呟いた声が、窓から入り込んで来た賑やかな街の声に掻き消される。街の活気さを実感しながらコヨーテはフッと口元を緩めた。

「久々の休みだ」




(ゆっくり街を回るのもいい)












 「−−−−−って思ったのに何であなたと出会ってしまうんでしょうかね」

はぁあと気持ち大きくため息をついて見せる。街に出て数分。ばったり出会ってしまった目の前の人物・・・じゃない・・・犬は、コヨーテの部下にして一番の問題児、ジャッカルである。ちなみに偽名。本名知ってしまったら・・・・・・まず本人が『ヤベェ!知られちまったぜ!ヤベェよ!!』と、喚き散らすだろうからその間に逃げれば
OK


で、話を戻して。


ジャッカルは碧の瞳を細めながら極普通に

「あーと、オレは暇潰しに街を・・・じゃねェ。人を・・・じゃねェ。・・・・・・・・えーと取り敢えず暇潰ししてただけだ」

コヨーテと出会った経緯を話そうとして失敗。

「・・・・・・へーえ、街と人で暇潰しですか。一体どんな潰し方をしたんでしょうねぇ」

「い、いや・・・だから違うって」

ジャッカルの目が明後日の方向を向く。コヨーテは再度、深く深くため息をつくと、ジャッカルとの間合いを詰めジロリと思いきり睨みをきかせた。

「微かに血の臭いがしますよ」

「あひぃっ!」

「・・・・・・何ですか『あひぃっ!』って・・・・・・」

「ジョ・・・条件反射デス」

棒読みでジャッカルが言う。
コヨーテは再再度深く深く深ーくため息をついた。

「報告書、きちんと書いてもらいますから」

「はぁあ!?んなもん誰が書くかってあ、スミマセンごめんなさい書きます書きます書きます」

再びジャッカル敗北なり(詳しくは日常
verを)。そしてジャッカルの返事(強制的に言わせた)を聞くとコヨーテはくるりと後ろを向き、ジャッカルを置き去りにして歩き出した。部下のやらかした失態(何時もの事だけど)にイラつきながら、しかし空はそれを嘲笑うように晴れ渡っているのを見て、柄にもなく感傷に浸る。そんな情景と自分の心持ちに舌打ちをした。その時

「コヨーテ様」

「−−−!?」

背後で名前を呼ばれてコヨーテは勢いよく振り向いた。

(後ろを取られた!?)

休日なため軍の階級証は付けていない。命を狙われる事はないだろうと無意識に気を緩めていた事に今更気付く。

今更

いまさら−−−

「・・・今度はあなたですか」

もの凄い脱力感がコヨーテを襲っう。それもその筈。振り向いた先には部下その2のクルペオが。そしてその先には口から魂が抜けかかったジャッカルがいたのだ。

「・・・・・・クルペオ、気配を消して近づくのは止めて下さい。心臓に悪いので」

「申し訳ありません。癖な物で」

今更気付いたも何もない。
クルペオは毎回毎回気配を消して近づくのだ。この会話も何回目かしれないほど。言った事には忠誠的に従うクルペオにしては珍しく譲らないものだし、気配を消すのは任務にも役立つため無理にどうこうしようとは思っていないが、いかんせん、後ろを振り向いたらいつの間にかいました、では背後霊みたいで怖い所がある。このクルペオの自称『癖』でリカオンが一体何回叫んだ事か。

「で、あなたは何故ここに?」

だいたい予想はつくのだが、取り敢えず聞くだけ聞いてみる。するとクルペオはスッと横に退いて、ジャッカルを前に出した。

「道端で石化してましたので、通行人の邪魔にならないよう連れて来ました」

「・・・・・・それで?」

「譫言で報告書だとか何とか言ってたので、コヨーテ様ならわかると思いここに現れた次第です」

予想大的中。
魂の抜けかかったジャッカルを見た時点ですべてを把握してしまう自分に心中で失笑。

日常に慣れ過ぎている。

「クルペオ、ジャッカルの口から出ているやつを押し戻してやりなさい」

「御意に」

ズドンッ

と言う凄まじい音と共に、ジャッカルの口から出かかった魂が戻される。虚ろだった目に光が戻ったが、その判明口から血がダラダラ流れていて、客観的に見るとさっきより死にそうに見える。

「−−−ってぇな!何すんだよクルペオ!!」

前言撤回。
憎たらしい程元気だ。

「そう言うあなたは何をしてるんですか?」

「ひっ!また会った!?」

「それはこっちの台詞です」

呆れて、コヨーテはジャッカルの横を通り過ぎながら

「報告書は今日の
17時厳守です。クルペオ、ご苦労様でした」

こう言う『つもり』だった。




「あ!コヨーテさーん!」




思考停止。
前方にニコニコとしながら駆けて来る部下を一匹発見。

「・・・・・・・・・リカオン」

脱力を通り越して泣きたくなったのは言うまでもない。




−−−−−†−−−−−




鐘が鳴った。
それは夕刻を告げる音。
一日の終わりが近い事を示す。


けれど−−−決して。


「んだよ、皆揃っちまってるじゃねぇか」


一日に終わりが来ようが


「・・・そうですね・・・・・・」


一年に終わりが来ようが


「ホントだ!何で皆さんそろっちゃってるんですか?」




世界に−−−終わりが来ようが




「切っても切れない・・・ですか」

この命、尽きる事あれど
この縁、尽きる事なし


だから−−−


(何処までも付き合って貰おう)


血濡れたこの世界に
血濡れたこの時代に
血濡れたこの身に


何処にいても−−−















「だからって休日にまで会うのはどうかと思いますけど、しかも偶然に」

「同意見です」

「でも何だかいいじゃないですか!!見えない糸で繋がってるんですよ、僕達!」

「キモチ悪い事言うんじゃねェよ!!」

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我がオリジ話のスピンオフ的なお話を書いていただきました!
コヨーテの熱狂的ファン龍白さん、相変わらず素晴らしい腕前で^^
A:P9000HIT記念に書いていただいたものでした。多謝!!

そのうちコクガチの挿絵が描かれる可能性あり